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仙台地方裁判所 昭和63年(ワ)269号 判決

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一、請求

被告は、原告に対し、金四八七万六七一一円及び内金三八七万六七一一円に対する昭和六〇年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二、事案の概要

本件は、競売手続の配当期日において配当異議の申出をした債務者が、右競売手続において違法な配当金の支払がなされ、そのために損害を被ったとして、国家賠償法の規定による賠償を請求した事案である。

一、(争いのない事実)

1. 仙台地方裁判所は、当時原告の所有であった別紙物件目録(一)、(二)記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)等につき、昭和五七年(ケ)第二三八号事件として担保権の実行としての競売手続(以下「本件競売手続」という。)を開始し、その後本件不動産売却の結果、昭和六〇年三月一三日の本件競売手続の配当期日(以下「本件配当期日」という。)において、高橋一男に対し三八七万六七一一円を配当することなどを記載した配当表を作成したが、右配当期日において、債務者である原告は、配当表記載の高橋の債権について不服があったため、配当異議の申出(以下「本件配当異議の申出」という。)をした。

2. 次いで原告は、同月一九日、同裁判所に対して、高橋を被告とする配当異議の訴(以下「本件配当異議の訴」という。)を提起し(日付については、乙四、原告による。)、さらに、同日、右配当異議の訴についての訴状受理証明願及び右訴を提起した旨の届出書を提出し、次いで翌二〇日、同裁判所より訴状受理証明書を受領した。

3. 同裁判所は、同月二二日、本件競売手続において高橋に対する配当(以下「本件配当」という。)を実施し、前記金額の支払をなした。

二、(争点)

1. 原告は、本件配当期日から一週間以内に、執行裁判所に対して、本件配当異議の訴を提起したことの証明をしたか。

2. 本件配当により、原告に損害が発生したか。

第三、争点に対する判断

(配当異議の訴提起の証明の有無について)

一、原告は、仙台地方裁判所に対して、本件配当期日から一週間以内である昭和六〇年三月一九日、本件配当異議の訴を提起した旨の原告作成名義の届出書を提出したこと(右事実は当事者間に争いがない。)により、執行裁判所に対して右訴を提起したことを証明した(民事執行法九〇条六項)旨主張するので、その当否について判断する。

確かに民事執行法は、起訴証明の方法については格別の規定を設けていないから、その方法について特段の制限を予定していないというべく、起訴証明の方法として、訴提起と共に訴提起の届出書を提出するいう方法も認められる余地がないではない。けれども、配当手続にあたる執行裁判所を構成する裁判体と配当異議の訴を担当する裁判体とが同一である場合(たとえば、裁判官の配置が一人である支部の如き場合がそれである。)には格別、別個である場合においては、執行裁判所が受訴裁判所の係属事件を容易に調査できるとは限らないので、起訴証明の方法としては、訴を提起したことを執行裁判所に届け出るだけでは足りず、受訴裁判所の訴状受理証明書(民訴法一五一条三項)の提出などによるべきものというべきである。

本件においては、執行裁判所を構成する裁判体と配当異議の訴を担当する裁判体とが異なるものと認められる(乙一、二、三、原告)から、訴提起の届出書の提出だけでは、本件配当異議の訴を提起したことを証明したことにはならないというべきである。

他に、原告が、本件配当期日である昭和六〇年三月一三日から一週間以内である同月二〇日までの間に、執行裁判所に対して本件配当異議の訴についての訴状受理証明書を提出するなどして右訴提起の証明をしたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告の本件配当異議の申出は取下げたものとみなされ、執行裁判所が前記配当表に従って高橋に対して本件配当を実施したことについては、違法な点はないというべきである。

二、なお、仮に、原告がなした本件配当異議の訴についての訴提起の届出をもって、右訴提起の証明がなされたものと認められる余地があるとしても、右訴は、第一審で却下され、その控訴審において控訴取下げ(休止満了)により終了している(原告)ところ、そもそも執行裁判所によって作成された配当表に誤りがある場合は、原則として配当期日における異議の申出によって始まる民事執行法上の手続によってこれを是正すべきであり、これを怠った者は、自己にとって不利益な配当表が作成され、配当を実施されたとしても、その損害賠償を国に対して求めることはできないものというべきである(最高裁判所昭和五七年二月二三日第三小法廷判決・民集三六巻二号一五四頁参照)から、前述のように右民事執行法上の手続を怠ったものというべき原告は、たとえ本件競売手続において原告が本来なら受けられたであろう剰余金が存在しそれを受けられなかったとしても、これによる損害の賠償を被告国に請求することはできないというべきである。

物件目録〈略〉

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